インボイスの2割特例とは、免税事業者(売上1000万円以下)がインボイス登録をきっかけに課税事業者になった場合、消費税の納税額を軽減してくれる制度です。
- 期間は限定されている。個人事業主の場合は2026年まで
- 売上に含まれる消費税の2割を納付する
- 事前の届出は不要。消費税の申告書に2割特例を適用する旨を記載するだけ
- 年度ごとに特例を利用するか選択できる
以下は対象を個人事業主にしぼって2割特例を説明していきます。法人の場合は決算月によって扱いが違ってきます。
2割特例の適用を受ける条件
2割特例を受けられるのは、本来は免税事業者であった人です。2年前(基準年度)の売上が1000万円以下であった人がこの特例の対象です。
2023年10~12月分であれば、2021年1~12月の売上が1000万円以下であれば2割特例の対象です。
課税期間 | 基準年度 |
2023年10~12月 | 2021年1~12月 |
2024年1~12月 | 2022年1~12月 |
2025年1~12月 | 2023年1~12月 |
2026年1~12月 | 2024年1~12月 |
この判定は毎年行うため、2024年が2割特例の適用外となっても、翌2025年に再び2割特例の適用を受けられるなんてこともあり得ます。
2割特例で納付する税額の計算方法
売上(税抜)に含まれる消費税額の2割を納付します。
たとえば、年間売上600万円(税込)だった年は次の計算式で納付額が分かります。なお、端数処理などがあるために正確な金額ではありません。大まかな目安だと考えてください。
600万÷110×100×10%×0.2=約10.9万円
- 売上を110で割って100を掛けているのは税抜の売上金額を出すため
- 0.1(=10%)が消費税率(軽減税率は考えない)
- 最後に0.2をかけているのが今回の特例
なお、簡易課税であれば、最後にかけている数字(2割特例なら0.2)が変わります。イラストレーターやエンジニアなどは0.5、飲食店であれば0.4、小売店なら0.2です。
簡易課税のイラストレーターなら本来の税額の半分以下ですみますが、小売店であれば簡易課税も2割特例も同じ金額になってしまいます。小売店であれば、本則課税と2割特例のどちらが有利かを考えることになります。
2割特例を利用するための手続き
2割特例を利用するには、事前の届出などは必要ありません。消費税の申告書に「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」というチェック項目があるので、そこにマルを付けるだけです。
ひとつだけ注意したいのが、2割特例の適用忘れに後で気付いたとしても「更正の請求」ができないところです。更正の請求とは、申告に誤りがあって本来よりも多くの税金を支払ったとき、払いすぎた税金を返してもらうための手続きです。
2割特例の適用忘れで多くの消費税を支払ってしまった場合、申告の誤りではなく、納税者の選択だと考えられるため、更正の請求をすることができないのです。もし申告期限までに気付いたのであれば、2割特例を適用した申告書を出し直せば大丈夫です(これを訂正申告と言います)。しかし、気付いたのが申告期限後であればもう手遅れです。
なお、反対のケースもあり得ます。実は本則課税の方が有利だったのに、2割特例で申告書を出していたというケースです。その場合でも、気付いたのが申告期限後であれば、訂正することはできません。
ちなみに、申告書を作成したのが税理士であり、税理士が2割特例の適用に誤りがあったのであれば、その税理士に対して損害賠償請求ができます。また、自分で作成した申告書であっても、2割特例について税理士が誤ったアドバイスをしたときも同様に損害賠償請求ができます。
2割特例の終了後に備えて簡易課税の届出を出しておく
2割特例は2026年までの期間限定です。ただインボイス登録をしただけでは、2027年以降は本則課税で納付税額を計算することになります。簡易課税の適用を受けたいなら、あらかじめ「簡易課税選択届出書」を提出しておく必要があります。
簡易課税選択届出書の提出期限は、年度が始まる前日です。2027年に簡易課税の適用を受けたいなら、2026年12月31日までに届出書を出さなければなりません。年末年始の休みが明けた日ではないところに注意してください。年度が始まってしまったら、簡易課税の適用を受けられるのは1年先になってしまいます。
ほとんどのフリーランスは、簡易課税を選んだ方が納付すべき税額は少なくて済むし、記帳・申告も圧倒的にラクです。本則課税の方が納付税額が明らかに少なくなる場合を除き、簡易課税選択届出書を出しておくことをおすすめします。期限ギリギリに出すのではなく、インボイス登録と同時に簡易課税選択届出書も出しておくべきです。
簡易課税については以下のページをご覧ください。
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