青色申告なら家族に給料を支払って節税できる -納税額が年数十万円も違ってくることもある

フリーランスで課税所得がある程度あって、家族に仕事を手伝ってもらっている人なら、その家族に給与を支払うことで税金や社会保険料が少し安くなるかもしれません。

家族に給与を支払うと税金が安くなるカラクリを要約するとこんなかんじです。

  1. 所得が多い人ほど所得税の税率は高くなる(所得税は累進税率を採用しているため)
  2. 家族で所得を分け合えば、それぞれの所得は少なくなる
  3. 結果として低い税率になるので、所得税が安くなる
  4. さらに、給与所得控除が使えるので課税所得自体も減ってくれる

所得が多い人は所得税の税率が高い

分かりやすく例を見ながら考えていきましょう。

以下の計算例では、復興特別所得税や住民税の均等割、住民税の調整控除などを考慮していません。そのため、算出される税額は正確なものではありませんが、大まかな仕組みをつかんでいただくことはできると思います。

個人事業主Aさん


売上:1000万円
経費:300万円
所得控除:200万円
   ↓
課税所得:500万円(税率20%)

所得税:57.25万円
住民税:50万円
合計:107.25万円

個人事業主のAさんの課税所得が500万円だったとします。下の表に当てはめてみると、所得税率は20%であることが分かります。支払うべき税金(所得税+住民税)は、107万2500円です。ちなみに、住民税は所得の金額にかかわらず税率は10%で固定であり、所得が増えたからといって税率が上がることはありません。

課税所得 税率 控除額
~195万円5%
195万円~330万円10%97,500円
330万円~695万円20%427,500円
695万円~900万円23%636,000円
900万円~1800万円33%1,536,000円
1800万円~4000万円40%2,796,000円
4000万円~45%4,796,000円
所得税の税率表

所得控除や課税所得についてはこちらのページから。

所得の分散で数十万円もの節税効果が得られることも

次に、事業主Aさんが家族従業員Bさんに年間360万円の給料を支払うとします。今まではAさん一人の所得として税金を計算していましたが、AさんとBさんの2人で所得を分け合うようにするわけです。そして、AさんとBさんがそれぞれ税金を払うようにします。

個人事業主A
  ↓ 給料 年360万円(月30万円)
家族従業員B

個人事業主Aさん


売上:1000万円
経費:660万円(支払給与360万円を含む)
所得控除:162万円
  ↓
課税所得:178万円(税率5%)

所得税:8.9万円
住民税:17.8万円
合計:26.7万円

家族従業員Bさん


給与:360万円
給与所得控除:116万円
所得控除:48万円
  ↓
課税所得:196万円(税率10%)

所得税:9.85万円
住民税:19.6万円
合計:29.45万円

AさんとBさんを合わせた負担合計

所得税:18.75万円
住民税:37.4万円
合計:56.15万円

事業主Aさんは支払給与360万円の分だけ経費が増え、課税所得が減って178万円になります(配偶者控除や扶養控除が使えなくなり、所得控除が減るために、課税所得の減少額は支払給与の金額より少なくなります)。178万円という課税所得を税率表に当てはめると、税率はいちばん低い5%になりますね。

また、従業員Bさんも受け取った給料に税金がかかります。年間360万円の収入ですが、この金額がそのまま課税所得になるわけではなく、給与所得控除116万円と所得控除(基礎控除)48万円を引くことができます。従業員Bさんの課税所得は196万円、税率は10%になります。

事業主Aさんと従業員Bさんが支払うべき税金を計算すると、二人合わせて56万1500円です。元々は107万2500円でしたから、所得を分散することで50万円以上も減らせることができたのです。もしこれを10年間続けたとすれば、累計で500万円以上もの違いが生まれてきます。

適用税率が下がるだけでなく課税所得自体も減る

家族に給与を支払うことで税金が安くなる理由は2つあります。

  1. 所得を分散することで所得税率が下がったため
    事業主Aさん一人で税金を払っていたときは税率20%でした。これが給与を支払うことで、Aさんは5%、Bさんは10%の税率に下がりました。
  2. 家族従業員の給与所得控除の分だけ課税所得が減ったため
    事業主Aさん一人で税金を払っていたときは課税所得500万円でした。これが給与を支払うことで、2人合わせた課税所得は374万円に減りました。減ったのはBさんの給与所得控除の分です。

「給与所得控除」というのは、サラリーマンに認められた必要経費みたいなものです。個人事業主が売上金額から必要経費を引くことができるように、サラリーマンは給与収入の金額から給与所得控除というものを引くことができます。

給与所得控除は給与収入の金額によって決まり、年間の給与収入が360万円であれば、給与所得控除は116万円になります。これって考えてみればすごいことですよね。経費が116万円増えたのと同じ効果が得られるわけです。

さらに、国民健康保険の保険料も少しですが安くなります。保険料は世帯ごとに計算されるのですが、加入者すべての所得を合計した金額がベースになります。今回の例では、Bさんの給与所得控除の分だけ所得が少なくなるため、116万円に対応する保険料が減ることになります。仮に所得割の料率が10%だとすれば、保険料がだいたい11万円安くなります。

もっとも節税額を大きくするには、事業主Aさんと従業員Bさんの所得税率が同じになるようにBさんに支払う給与の金額を調整します。税率が同じであれば、従業員Bさんの給与を多くするほど給与所得控除が大きくなって有利です。

事業主Aさん一人で税金を支払う場合、家族のBさんは扶養親族になるため、所得控除38万円(扶養控除 or 配偶者控除)を事業所得から差し引けます。
一方、従業員Bさんに給料を支払うとどうなるのか。事業主Aさんの所得控除38万円は使えなくなります。しかし、Bさんの税金の計算上では所得控除48万円(基礎控除)を使えます。
つまり、Aさんの扶養控除 or 配偶者控除が、Bさんの基礎控除に振り替わるわけです。単純に振り替わるだけでなく、控除の金額も10万円増えます。このため、今回の例では、給与所得控除116万円+所得控除の増額10万円を合わせて、課税所得が126万円減ることになります。

家族に給与を支払うには手続きが必要

個人事業主が家族に給与を支払うなら、あらかじめ税務署に届出を出しておく必要があります。原則として家族への給与は経費にならないため、届出がなければ支払給与は経費として認められません。以下の3つの届出を出しておきましょう。

  • 青色事業専従者給与に関する届出書
  • 給与支払事務所開設の届出書
  • 源泉所得税の納期の特例の申請書

他にも次のような注意点があります。

  • 事業主が青色申告であること
  • 従業員になる家族は原則としてその仕事に専念していること
  • 給与の金額は仕事の内容に見合っていないとダメ
  • 給与が月8万8000円以上だと所得税を源泉徴収して納税する必要あり
  • その他にもいろんな書類を作って税務署や自治体に出す必要あり

ただ給与を支払うという体裁を整えればいいというわけではありません。条件を満たしていないと支払給与が経費として認められないし、それなりに複雑で面倒な手続きと作業が必要になります。

個人事業のまま家族に給与を払うより、会社を作って法人成りした方が有利かもしれません。会社であれば、家族が他の仕事をしていても給与を払えますし、給与の金額をもっと自由に決めることもできます。

判断に迷ったときは税理士にご相談ください。当事務所にご相談いただければ、どうするのがもっとも有利なのか試算しますし、税務署などへの手続きも代行します。

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