青色申告の特典のひとつに、赤字の繰り越しがあります(純損失の繰越控除)。過去に赤字がある人が「今年より来年の方が売上が増えそうだから、来年のために赤字をとっておこう」ということはできるのでしょうか。
利益が上がった年に備えて赤字はとっておける?
青色申告で申告書を出していると、事業所得で赤字が発生したときは、その後3年にわたって赤字を繰り越すことができます。たとえば、2020年に300万円の赤字が発生した場合、2021年に500万円の黒字が出たとしても、2020年分の赤字を繰り越せるので所得は200万円(=500万円-300万円)になります。
ここで問題になるのが、赤字の繰り越しはタイミングを自由に決められるのか?
たとえば、2019年は開業初年度で300万円の赤字が発生したとします。2020年はなんとか100万の黒字を出せたけど、来年は事業が軌道に乗ったのでもっと黒字が大きくなりそう。
こんなとき、300万円の赤字は2020年の申告では使わずにとっておき、2021年で300万円を使った方がいいですよね。100万円くらいの黒字であれば所得控除があるので、納税額はほぼゼロに近いから、ここで赤字を消費するのはもったいない。また、所得税は累進課税であるため、所得が多い年にまとめて赤字をぶつけた方が税額は安くなります。
赤字を使うタイミングは選択できない
しかし、残念ながら、使える赤字があるのにそれを使うことなく次年度以降に繰り越すことはできません。使える赤字があるなら、必ず使わなければなりません。
過去に同じように考えて、国税不服審判所に訴えた人がいますが、赤字は順次繰り越していき、任意選択性はないという裁決が出ています。
赤字の繰り越しを定めているのは所得税法70条です。
当該純損失の金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する。
最後の文言に注目です。もし「控除できる」と書いてあれば、好きなタイミングで赤字を使えると解釈できるかもしれません。でも「控除する」と書いてあるんですよね。こういう書き方だと、納税者の選択の余地はなく、所得金額の計算方法を定めたものと読めます。
ちなみに、金融商品の赤字も繰り越しができますが、こっちは税率が一定だし、分離課税なので所得控除がからまないから、どの年に赤字を使っても通しての納税額が変わることはありません。法人税でも同様にタイミングが問題にはなりにくいです。しかも、赤字は9年間繰り越しできるし。
所得税は本当に難しいです。
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