年間の売上が1000万円を超えると、フリーランスであっても消費税の納税義務が発生します。消費税を納めることになった人のため、納税額の計算方法を紹介します。消費税の計算方法には2種類あって、どちらを選ぶかで納税額が違ってくるところに注目してください。
売上に含まれる消費税の金額を求めるには
ある年の売上が1100万円(税込み)だったとします。消費税の税率は10%だとします。いくら消費税を納めることになるでしょうか?
売上に税率10%を掛ける?
1100万円×10%=110万円?
本体 990万円?
消費税 110万円?
違いますね。税抜の本体価格が1000万円なら、税率10%で消費税は100万円(=1000万円×10%)。だから、税込みの売上1100万円であれば、それに対応する消費税の金額は100万円になります。税込みの売上金額にそのまま税率を掛けるのではなく、10/110(110分の10)を掛けると消費税の金額を求められます。
税率10%の場合、売上に10/110を掛ける
1100万円×10/110=100万円
本体 1000万円
消費税 100万円
これが食品を扱う小売店で軽減税率の8%が適用されるとすれば、税込みの売上金額に8/108(108分の8)を掛けると、その売上に含まれる消費税の金額が出てきます。
税率8%の場合、売上に8/108を掛ける(軽減税率)
1100万円×8/108=81万4814円
本体 1018万5186円
消費税 81万4814円
納税するのは預かった消費税と支払った消費税の差額
税込みの売上金額が1100万円だった場合、100万円を納税するのかと言えば、そうではありません。納税するのは、預かった消費税(売上に含まれる)から、支払った消費税(仕入・経費に含まれる)を引いた金額です。
たとえば、1100万円(税込み)の売上を得るために、660万円(税込み)の仕入・経費がかかったとします。売上の中に含まれる消費税は100万円(=1100万円×10/110)、仕入の中に含まれる消費税は60万円(=660万円×10/110)。納税するのは預かった消費税から支払った消費税を引いた分なので、40万円(=100万円-60万円)を納税することになります。
預かった消費税
売上 1100万円
→1100万円×10/110=100万円
支払った消費税
仕入・経費 660万円
→660万円×10/110=60万円
納税する消費税
預かった消費税と支払った消費税の差額
→100万円-60万円=40万円
だから、同じ売上金額であっても、仕入や経費の金額によって納めるべき消費税の金額は違ってきます。卸売業のように売上と仕入に差が小さければ、売上の大きさの割には支払うべき消費税は少なくてすみます。一方、仕入や経費がほとんどかからないコンサルタントみたいなサービス業では、売上が小さくても支払うべき消費税が多くなります。
卸売業
1100万円の売上のため、990万円の仕入・経費があった場合
- 預かった消費税 100万円(=1100万円×10/110)
- 支払った消費税 90万円(=990万円×10/110)
- 納税する消費税 10万円(=100万円-90万円)
コンサルタント
1100万の売上のため、110万円の経費がかかった場合
- 預かった消費税 100万円(=1100万円×10/110)
- 支払った消費税 10万円(=110万円×10/110)
- 納税する消費税 90万円(=100万円-10万円)
なお、支払った消費税の額を計算するとき、消費税がかからないモノやサービスの金額を仕入・経費の金額に含めることはできません。たとえば、従業員への給料や土地を借りたときの地代などには消費税がかかりません。事業所得を計算するときの仕入・経費に比べて、消費税を計算するための仕入・経費の方がたいていは範囲が小さくなります(特に従業員に支払う給料が多いとき)。そのため、事業所得は赤字であるにもかかわらず、消費税は納めなければならないことがしばしばあります。
また、消費税(10%)は、国税(7.8%)と地方税(2.2%)に分けられていて、申告書では別々に税額を計算します。さらに軽減税率が導入されてからは、税率別に売上と仕入・経費の金額を区別して計算しなければなりません。実際の税額計算はうんざりするほど複雑です。
支払った消費税の計算方法には本則課税と簡易課税の2種類がある
消費税で実際に納税するのは、預かった消費税と支払った消費税の差額です。しかし、規模が小さい事業者にとっては、この方法で税額を計算するのはあまりに負担が大きい。そこで、基準期間の売上金額が5000万円以下であれば、「簡易課税」という計算方法が認められています。原則的な方法(本則課税)か簡易課税かどちらか有利な方を選んでかまいません。
簡易課税では、まず売上の金額に10/110を掛けて預かった消費税を求めます。そして、その金額に一定割合(みなし仕入率)を掛けた金額を、支払った消費税とみなして引き算します。
たとえば、飲食業はみなし仕入率が60%です。売上が1100万円、預かった消費税が100万円であれば、その100万円に60%を掛けた60万円を支払った消費税とみなして、納税する金額は40万円(=100万円-60万円)になります。
飲食業の簡易課税の場合
売上1100万円、みなし仕入率60%
- 預かった消費税 100万円(=1100万円×10/110)
- 支払った消費税 60万円(=100万円×60%)
- 納税する消費税 40万円(=100万円-60万円)
簡易課税を選択したら、売上が決まれば消費税の納税額も決まります。実際に仕入・経費にいくらかかったかは関係ありません。
みなし仕入率は業種ごとに決まっています。卸売業がもっとも高くて90%、不動産業がもっとも低くて40%です。複数の事業を行っている場合は、事業の種類ごとに売上の金額を分けて、別々のみなし仕入率を適用することになります。
みなし仕入率
- 第一種事業(卸売業)90%
- 第二種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)80%
- 第三種事業(製造業等、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く))70%
- 第四種事業(その他の事業)60%
- 第五種事業(サービス業等)50%
- 第六種事業(不動産業)40%
経費がかからないフリーランスなら簡易課税を検討しよう
簡易課税という計算方法を使えるのは、売上が5000万円以下の場合だけ。ほとんどのフリーランスは5000万円を超える売上なんてありませんから、簡易課税を選択できます。
ライターやイラストレーター、エンジニア、コンサルタントなど、多くのサービス業では簡易課税の方が有利になるはずです。サービス業のみなし仕入率は50%。ですから、過去の申告書に添付した青色申告決算書を見て、売上に対する経費の比率を計算してみてください。経費の比率が50%以下であれば、簡易課税のみなし仕入率50%で計算した方が有利になります。
簡易課税で消費税の計算をしたいときは、年度が始まる前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。たとえば、2021年の売上に対して簡易課税を用いたいときは、2020年12月31日までに届出書を出さなければなりません。年度が始まってから「思ったより経費が少なかったので、やっぱり簡易課税で計算したい」という切替はできません。事前にどちらが有利かを検討し、簡易課税が有利であれば届出を出してください。
簡易課税を選択したけれど、一年が終わって実際に計算してみたら、思ったより経費がかかって本則課税の方が良かった、なんてことが起きるかもしれません。そんなときでも、事前に選んだ方式で申告書を作って納税することになります。
簡易課税の届出を出した後、やっぱり本則課税に戻したいというときは、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を税務署に提出します。これも年度が始まる前に出す必要があります。また、簡易課税は最低でも2年は継続しなければならないというルールがあります。2021年から簡易課税に切り替えたなら、本則課税に戻せるのは2023年からです(2022年12月31日までに届出を出す)。
サービス業のフリーランスなら簡易課税の方が有利になることが多いとは思いますが、なにか大きな出費がある年は本則課税の方が納税額が低くなるかもしれません。年末が近づいてきたら、来年の見通しを立てて、どちらが有利になるかを検討してください。そして、切替が必要であるなら、12月31日までに届出を出してください。
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